外伝初期におけるバージョン違い 〜金型復元の予察〜 ゾッカー
ガン消しは考古遺物である。詳しく言うなら、1980〜90年代における、バンダイとその周辺関連会社による大量生産された工業製品の遺物である。よって考古遺物であるゆえに、そこに見出される属性は全て真実であり、歴史の一部である。また歴史の一部であることは、曖昧な例外を理論上持ち得ない。
このことを念頭に置いて資料を扱い、唯一の歴史を復元していくことが、私の提唱する“ガン消し考古学”である。
以前から本弾ではゲルググキャノン背中の溝の有無についてのバージョン違いや、後期武者の足裏の名前エラー等などは有名であった(註1)。
しかし、外伝も同様にバージョン違いがいくつか存在することが明らかになってきている。一部では既に有名であるが、ブラックドラゴンのHP表記が2種存在することを知ったのが契機となって(註2)、複数のコレクター諸氏との情報交換を基に手持ちのダブリを外伝初期のほうから調べていった結果、かなりのバージョン違いが存在することが判明した。
まだ通過点に過ぎないが、今後膨大なバージョン違いが発見されて情報が錯綜する前に現状での報告をまとめる。
A.ラクロア1弾
ラクロア1弾では、タートルゴッグとキラーズゴックを除く10種にバージョン違いが確認された。なお武器セットについては、ランナー位置違いは有るものの、明確なバージョン違いとの認識はできない(HP表記が無いため)。
なお、出現頻度については、手持ちの100個強のダブリをもとに主観的に判断したため、必ずしも正確でないことをご了承いただきたい。
なお、タートルゴッグとキラーズゴックに関しては、HP表記は太字Aのみである。背面のピン痕位置や、タートルゴッグの「HP170」の文字位置について微細に異なる個体が存在するが、これが明確にバージョン違いであるか判断に苦しむところである。
B.ラクロア2弾
ラクロア1弾と違って、1種のフォント(便宜上フォントBとする)のみのHP表記である。また、背面のピン痕位置やランナー位置違いは確実に存在するものの、これを明確なバージョン違いに位置付けることはためらわれる。
しかし、HP表記が全く違う戦士ドムと、成形上に違いが見られるエルフジムスナイパーについては、確実にバージョン違いと認識できる。
C.伝説の巨人
この弾になると手持ちのダブリも少なく、比較検討が難しいのが実情であるが、現時点では明確なバージョン違いは存在しない(便宜上フォントCとする)。但し、微細なHP表記のフォント違いは、戦士デザートドム・戦士ガンキャノン(憑依)で確認できる。これをバージョン違いと認識することにはためらいを覚えるが、今後の参考のためにも紹介する。
D.アルガス1弾
この弾では明確なHP表記文字の違いが確認される。しかし、ラクロア1弾で見られたような視認しやすい別フォントによる太字・細字バージョンとは違い、言うなれば同一字体によるポイント(文字の大きさ)違いが大字(便宜上フォントDとする)・小字(フォントdとする)となって顕れる。 手持ちの資料が少ないため全てのキャラで比較検討ができなかったことを明記しておきたい。また、出現頻度についても確証できるだけの資料数が無いため省略する。
なお、ヤクトドラゴン、僧侶ガンタンク2については3体づつを比較したがポイント違いは確認できなかった。フロッグアッガイ、メデューサキュベレイ、呪術士キュベレイ、剣士ゼータについては、手持ちが単体のみにて比較検討できなかった。また馬についてはHP表記が存在しないため、これも比較検討はできなかった。
E.アルガス2弾
現在のところ確認できない(便宜上フォントEとする)。比較的手持ちで資料数の多い戦士リックドムII5体について詳細に比較検討したが、違いは確認できなかった。
F.光の騎士
アルガス1弾同様のポイント違いが見られる(便宜上フォント大字F,小字fとする)。騎士アレックス、剣士Zに確認できた。それ以外のキャラにおいては、多くても2体と比較検討できるだけの資料を持たないため確認することはできなかった。
フォント同士の比較
以上述べてきたように、1つの弾につき1〜3のフォントが確認できた。
そこで次に、フォント同士の異同について観察した。その結果、弾が異なった場合は全て微細なフォント違いが見られ、同じフォントは存在しないことが判明した。
それぞれのフォントの特徴を記す。
太字A:Bと似るが、文字字体の線がBよりシャープさに欠け野暮ったい感じがする
細字a:非常に特徴的で、フォント字体が幅狭、かつ線が細い
B:文字のシャープさはCにも似るが、Bのほうが全体にまとまった感じがする
C:文字はシャープであるが、文字の間隔や大きさがBに比べ大きい感がある
大字D:dよりはもちろん、Cよりも一回り以上大きな文字である
小字d:便宜上細字に分類したが、Cよりも若干大きいくらいの文字である
大字D’:Dとdの中間のサイズである
E:上下の幅がAより小さくなり、全体的にまとまった感じ。シャープさにも欠ける
大字F:サイズやシャープさはdに似るが、dより若干間隔が広い
小字f:Eとaの中間のような感じである
若干の考察
このバージョン違いについて、その原因となる可能性を挙げると、
が想定される。金型については詳述を別稿に譲るが、金型1つで当時数千万円規模の投資がかかることは先に述べておきたい。 まず、I であるが、これは戦士ドムや兵士ハイザックのエラーを改修するため行われたと推測される。但し改修前に製造されたエラー品はそのまま市場に出回ることをバンダイは黙認(無頓着?)しているようで、このことは他の本弾例(ゲルググキャノン、赤龍頑駄無等)でも確認されている。 次に II であるが、同一ロット外、即ち他の弾のカップリングやベストセレクション等での再生産の改修を意味する。可能性としては全てのフォント違いについてを説明できるが、後述の理由により却下されると思われる(エルフジムスナイパーのバージョン違いを除く)。
まずラクロア1弾のAとaであるが、これはそれぞれ別の金型が存在したほうが合理的に説明できる。ブラックドラゴンの「HP9999」はaしか存在せず、また希少である。当時のコミックボンボンの記述では少数これが存在することが書かれていたということであるが、これをレアの作為的な作出と見るならば、「HP9999」を含む金型aを「HP−」のみの金型Aに対して少数生産すればよい。
Ex.金型A=1000、金型a=100→「HP−」:「HP9999」=10:1
あるいは、同じ金型a内に「HP−」が存在すれば(つまり IV を想定すると)、フォントaを持つ「HP−」「HP9999」が同時に製造されることになり、金型Aと同率で生産しても「HP9999」の数は少なくなる。
Ex.金型A=1000、金型a=1000、金型a内にて「HP−」:「HP9999」=1:1→
A「HP−」:a「HP−」:a「HP9999」=2:1:1
実際にはAとaの比率は同程度(Aのほうが多く検出されるが、これはベストやカップリング等の再生産時にAの金型しか使わなかった可能性を想定できる)と推察されることから、金型a内において「HP−」と「HP9999」の数量的な格差が反映したと考えられる。
また IV について補足すれば、騎士ギャンにて同じAながらランナー位置違いが存在することは、同一金型内において騎士ギャンが複数存在したことを想定でき、これを首肯する。
一方、タートルズゴックとキラーズゴックに関しては、aフォントを確認できないことから、その金型はこの2種のキャラのAのみで構成されていたと考える。つまり最低でも、3種類(あるいはそれ以上)の金型を用いて同時製造していたことが窺える。
続いてラクロア2弾以降について若干検討する。ラクロア1弾においては、金型Aと金型aの同時存在を推察し、更に金型内に同種キャラが複数存在することを指摘した。
既に II−1で指摘した通り、再生産に伴うフォント改修は否定される。つまり、ラクロア2弾以降で見られる(特にアルガスで顕著な)フォント/ポイント違いの大多数が、金型のフォント違いの同時複数存在によって作成されたものと考える(III)。また伝説の巨人で見られるような同一フォントによる微細な違いは、同じ金型内における同種キャラの複数の存在(IV)によるものと考えられる。
エルフジムスナイパーについて特に記す。これは唯一 II を想定できるパターンである(暫定ではあるが、僧侶ガンタンクのMPバージョンもこれにあたると思われる)。ラクロア2弾当時の特殊色素材のものは肩甲骨に穴が開いたバージョンしか確認できない。しかし、これは矢筒を装着して初めて分かる通り、本体とパーツが強く干渉してしまう。この問題点を改修したのは、ベスト時であろうと思われる。その結果、ベスト時の通常色素材のエルフジムスナイパーはそのほとんどが頚部に穴を開けたバージョンとして確認される。しかし、一部に旧来の肩甲骨に穴バージョンも見られる。これは IV を想定できる。すなわち、同一金型内において同種キャラが複数存在するため、改修を見落とされた金型部分があったことを想定するのである。これは、「金型の改修は非常に困難を極め、しかも手間がかかる」とにゃご神も証言されている(註4)。この現象は本弾ゲルググキャノンにおいて、新素材になった後も本体に干渉するバージョンが少数残存する事によく似ている(註5)。
最後にIIIの背景について考える。通常、工業生産において同種の製品を作るのにあたってその一部(この場合はフォント)に統一性が見られないという現象は考えがたい。その製造工場において例えばAラインにはAフォント、Bラインにはaフォントの内容的には同じ製品を同時期に製造するのは不可解である。
すなわちこの現象は、金型1つにつき1工場という生産体制を取っていたのではないか。これは、次の弾がリリースされる1ヶ月か2ヶ月の間に、数百万〜数千万個という生産体制を取らなければならないことに要因があると思われる。事実、ガシャポン戦士は関東に所在する3工場で製造されたとの証言があり(註6)、3工場のうち少なくとも2ヶ所で同時に金型が稼動していたと思われる。
フォントが異なる原因としては以下のことが考えられる。金型自体は、その3工場とは別の、金型作成を専門とした中小企業に外部発注という形式で作成されたのではないか。そうすれば、各社ごとに使用するフォントは80年代の各社・各形式のワープロのフォントと同じ如く、それぞれに異なってしまう可能性がある。また戦士ザクの例からも理解できるように、HP表記部分は本体や足裏の文字データと異なり、金型を作成する段階(あるいは反転させたシリコン型の段階)でプレート状に付属させるようである。このうち、本体や足裏の文字データ等は、バンダイ側からCADデータとして各社に送られ、各社はそのデータを基本として自社製のHP表記を織り込んだ金型を作成したのではないか。但し、なぜ本体のデータ(原型)にHP表記を含めなかったのかは不明である。しかしそれは戦士ザクの例をもって、事実行われたことだと推察される。
おわりに
以上、外伝初期のバージョン違いから、多少の飛躍感があるものの、生産体制について想定されることまで言及した。しかし、生産体制については机上の理論である事が多く、実際の証言などをもっと集める必要がある事も痛感した。また、フォント違いの背景等についてもまだ論を詰める段階ではなく、多くの諸氏の意見や研究も唯一の歴史の解明のためには必要となってこよう。この拙論がその活性化された議論の嚆矢となれば幸いである。
最後になりましたが、この稿をまとめるに当たり、オジゴンさん、クロさん、MADさん、PIGさんには大変お世話になりました。重ねて御礼申し上げます。
| 註1 | 赤龍頑駄無が「紅龍頑駄無」表記になっていた初版エラーや、青龍頑駄無の目玉の有無などが有名である。 |
| 註2 | 過去のBBSやオークション出品物にもその違いを記載された方もいることから、その存在は比較的有名であると思われる。 |
| 註3 | クロさんのご教示によると、89〜90年頃のコミックボンボン付録にその記述が有ったとのことである。現在追検証できていないため、情報を求む。 |
| 註4 | 論者は過去2回にわたって、にゃご神(当時のバンダイベンダー事業の責任者。企画、設計から写真シール用の改造・彩色まで関与しているらしい。スーパーセレクションの武器セット内にも立体化されている)とメールでコンタクトを取ることに成功した。その内容は非常に重要なものであるため、今後氏の了解を取った後に公開する予定である。 |
| 註5 | ゲルググキャノンのバージョン違いは、サカナさんによってマッドアングラーレポートvol.2にまとめられている。この背景について若干の私見を述べておく。溝無しバージョンは初版エラーであり、同一ロット内にて改修されたと思われる。よって流通も極小である。しかし、溝有り初期バージョンでは、プラ製バズーカを取り付けると本体に干渉してしまう。この問題を解決するために9弾以降12弾以前に改修が行われたと推察される。12弾には武器セットがあって、このキャノン砲にも対応していることから下限は12弾である。また12弾までは全て旧素材で作られている。一方、復刻版は1〜11弾まで存在し、その素材は新素材に変更されている。新素材の中でも初期溝バージョンと改修溝バージョンが混在すること、更に新素材のゲルググキャノンは他の9弾キャラに比べて卓越して多いことから、その改修は9〜11弾中にその中心があったといえよう。 |
| 註6 | にゃご神の証言による。但しこの3工場が、長期間の特定の3工場なのか、それとも同時期に稼動する工場数が3だったのか(待機や変更を含めるともっと多数なのか)は不明である。 |
参考文献
タニー=K 1990「SDガシャポン戦士大百科」ヒーローマガジン7月号付録
作成日/更新日: 05/11/28